2023/01/16 16:36

私が,田島漆店を継いで,ちょうど40年になりました。継いだ頃は日本の漆使用料は,今の10倍の330トンぐらい使っていましたが、この業界が抱えるいくつかの問題がありました。


1,原料漆の品質の問題、その頃は95%以上を占める中国産漆自体は,決められたルート以外は入手出来ませんでしたので,中国側にはなかなかクレームが通じませんでした。したがって,漆の品質も様々で腐敗する漆も多く有りました。弊社もそのような腐敗したうるしの不良在庫を多く抱えていました。
2,精製漆の品質の問題です。この頃から,漆にも化学塗料のようなピカピカとした艶が求められるようになりました。でも,普通の鉢黒目では,特に夏場はに良い艶に上げることは非常に困難でやはり艶不良と言う不良在庫を多く抱えていました。また,耐候性の悪さも漆の欠点とされていました。
3,漆の樹液の生産性の悪さです。中国産や日本産の漆は一本の木から,苗から育てて約15年でようやく漆が採れる木になり,約400gしか採れません。これは,殺し掻きといって1年で取りきる方法と養生掻きと言って2年ごとで7〜8年で採る方法も,大体同じ量です。

1について
改革開放経済政策のおかげで,中国の奥地まで自由に行けるようになり,1991年から1996年まで中国の漆の産地まで行き漆掻きの人たちと技術交流しました。そして、2000年頃から毎年中国に行って,自身の鑑定技術で直接買付をして、漆の品質の鑑定について向こうの技術者と交流して色々勉強しました。約12年通いました。その結果,最近の輸入される漆は腐敗することもなく,特に最近は漆の値段も何倍にもなって余裕を持って買えなくなってしまい,余計無駄に出来ないようになったので,よかったです。

2について
これは,弊社と京都市試験場と日華化成の三者で,1992年漆のロールによる精製技術開発をしました。
特色は,常に艶の良い物が出来,細かく分散しているので鉢黒目に比べて短時間で漆膜の硬化が出来、塗ってからの出荷も早く出来るようになりましたが,耐候性の向上は見られませんでした。ただ,膜の中まで均一なので艶引けは遅いです。デメリットは,鉢黒目に比べ一日の生産量が三分の一ぐらいということと粘度が低いことです。

3について
これは今後の課題でありますが,今のところ成果は得られていませんが,ベトナム漆が中国産の何倍も採れると言うことが,一つのヒントかと思っています。
あと黒漆の色の抜け問題もあります。これも今後の課題です。漆膜のゴム質を水に溶けにくくすることが課題です。

以上が,私の四十年のやってきた仕事です。
でも漆の使用料は年々減ってることがとても残念です。